大西洋漂流76日間
スティーヴン キャラハン
『大西洋漂流76日間』スティーヴン・キャラハン著。
大西洋を76日間も漂流して生き延びた著者がその体験をまとめたもの。海洋漂流ものとして非常におもしろかった。もちろん実話なわけで、絶望的な状況のなかよく生き延びたと感心する。
海で遭難した場合には3日以内に90%以上が死ぬそうで、それを考えると著者の生存日数は驚異的。歴史をひもといてもこれだけ長く漂流して生き延びたのは数例があるのみらしい。人間は3日程度絶食し水をとらなくても死ぬことはないが、それでも多くの人がまいっていまうのは精神的なものが大きいとのこと。数日間まわりに海原しか見えないような環境では、肉体より先に精神が絶望感にさいなまされまいってしまうらしい。よほど強靭な精神がないと数十日も生き残るのは無理とのこと。本の中でも何度も著者が絶望感におそわれ、あきらめようとするのだが、そのたびに気持ちを奮い起こし何とか生き延びようと頑張る様はすばらしい。
魚を取るための銛がこわれたり、乗っている空気式漂流イカダがパンクするたび、そして集水装置がこわれるたびに知恵を働かせて、持っている道具でなんとか修理しようと格闘する様子が詳しく描かれていて興味深い。ところどころに絵で詳しく解説されていたりして海に出て不運にも遭難してしまった人はいつか参考になるかも。もちろんそんな目にはあいたくないが…
結局、9隻(だったかな?)の船が通りかかるも発見してもらえず、ほとんど自力で島の近くまでたどりつき救助されるのだが、船がことごとく通り過ぎるというのはおそろしい。というのも、現代の船はほとんど自動航行で船の少ない大洋の真ん中では監視員もあんまりいないらしく発見してもらうのはきわめて難しいとのこと。よほど運に恵まれないといけないらしい。
著者が救助されてからすぐにあちこち動き回り、数日で病院の外にでたり、1週間ほどで病院も退院したりとなかなかバイタリティがある…病院関係者も本人がそういうなら、とうるさくいわなかったようだし、ラテン系の国で人々も細かいことにこだわらないということなのだろうか。日本の病院だったら、無理やりにでも精密検査とか強制入院とかさせられそう。
海にレジャーとかに行く人は読んでおいてもいい本かも。読み物としてもおもしろいし、参考になる。
ちなみに、海の水を飲むと体内から過剰なナトリウムを排出しようと摂取した以上の水分を消費してしまい、よけいにのどが渇いてしまう…という定説があるのはご存知だとは思う。しかしながら、真水がないというどうしようもない状況では海水でも5日を超えない範囲で一日800から900mlくらい飲むとよいらしい。というのも、いったん脱水症状をおこしてしまうと体内の水分量を回復するのが難しくなってしまうかららしい。ちょっとためになった。著者はこのことをしらなかったらしく、水で相当苦労している。
ところで、山で遭難すると私費で捜索費用を出さねばならないことがあり一財産失ってしまうらしいが、海での遭難には捜索費用はかからない。前々から不思議なのだが、海での遭難の生存率が極端に低いからだろうか?海で遭難しちゃうとどうせほとんど助からないから費用の請求もあきらめようということなんでしょうかね。
5729 プレイモービル 海賊の遭難